噛めば”命の泉”湧くの4回目。
最終回は、噛むことの認知症予防効果についてでした。
以下、大まかな内容です。
よく噛んで認知症の予防を

- 噛むと、記憶力がupする! にわかには信じられない事実が、次第に分かってきた。
- 時間の観点からいうと、記憶は、短期記憶、近時記憶、長期記憶に大別される。
- 新しい記憶が作られる時に重要な短期記憶と近時記憶は、大脳の奥まったところにある海馬が担当している。
- まず、チューインガムを噛む前と、噛んだ直後で記憶テストを行った。
- テストは、被験者に風景写真を見てもらい、その風景がどのくらい正確に記憶されているかを調べる方法をとった。
生活環境になじみがあり、遠近感豊富な風景写真を順番に見せた後、前回見せた写真の一部を微妙に変化させた風景写真を織り交ぜて見せる。その写真が前回見た写真かどうか、当ててもらう。 - 最初に写真を見る時にガムを噛まないで見た場合と、噛んだ後で見た場合とで、その後の記憶力がどう変化するか調べた。
- その結果、ガムを噛んだ高齢者は、成績が良くなることが明らかになった。
- ガムを噛んで成績がupした比率は、被験者全体の20%弱だった。この比率は被験者数が50人でも、1000人でも変わらなかった。
- 20%という値は低いのではないか、という意見があるかもしれないが、決して無視できる数字ではない。
- 但し、若い人に対しては、ガムを噛んでも記憶力upの結果はみられなかった。
- この場合の記憶は近時記憶で、主に海馬のはたらきである。
- ではガムチューイングによる高齢者の記憶力upは、海馬の働きで起こったものなのか、さらに詳しい実験をした。
- 磁気共鳴機能画像法を用いたテストをした。
MRI装置の中で、記憶力テストで使った写真と同様の写真、124枚を被験者に見せ、記憶してもらうというもの。 - 写真を記憶している時、海馬に活性化が見られるかどうか、また活性化しているなら、ガムを噛む前と、2分間ガムを噛んだ後では、活性化に違いがあるのか、調べた。
- その結果、写真を見て記憶している時には、海馬が明らかに活性化していることが分かった。
- 活性化は、若い人では大きく、高齢者では小さいことも明らかになった。
- また、若者の場合ではガムチューイングの前後で、あまり大きな変化は見られなかったに対し、高齢者はチューイング後に活性化が増大された。
- つまり、記憶テストでのガムチューイングの効果と、海馬活動におけるガムチューイング効果は密接な関係があったという事になる。
- では、噛まなかったり、噛めなくなったりすると、記憶は悪くなるのだろうか? また、海馬に障害が起きるのだろうか?
- この研究では、マウスに噛みにくい状態を作って実験した。
- その結果、マウスの奥歯を抜いたり、削ったりして噛みにくくすると、海馬が主役となってはたらく短期記憶や近時記憶が悪くなることが確認できた。
- 同じような記憶の悪化は、噛み合わせの高さを高くして、噛みにくくしても起こる。
- つまり、年をとって噛む機能が悪くなると、知的機能や認知機能に障害が起こり、認知症のリスクが大きくなる。
- さらに、驚くべき事実は、マウスを使った実験で分かった。
- マウスの削り取った奥歯を一週間後に治療して、よく噛める状態にしたところ、悪化した記憶が日ごとによみがえり、正常時の約20%弱まで落ち込んだ記憶力が、一週間後に約35%まで回復した。
- つまり、高齢者の場合、よく噛めるように治療すれば、記憶力がよみがえる可能性が高くなると考えられる。
- 最近、噛まないと海馬の情報が減少し、神経細胞死が起こるという研究結果が報告された。
- 神経細胞は、情報を受け取らなくなると、もういらなくなったと判断して死滅する。
- 噛みにくくした老齢マウスの海馬では、入力情報が減少することが確認された。
こうした状態が長く続くと、神経細胞は、死に向かって進行していく。 - そしてこの進行が、脳の萎縮を招く。
- 年をとって、最も早期に萎縮が起きるのは海馬である。年をとって物覚えが悪くなるのは、海馬の萎縮が原因である。
- また、最近発表された論文によると、噛めない状態が長く続くと、記憶に関係する脳内物質が減少することが指摘されている。
- 記憶に関係する脳内物質は数多くあるが、最も重要なのはアセチルコリンである。
- その証拠に、アセチルコリンは認知症を改善する薬「アリセフト」に使われている。
- アリセフトは、脳内でアセチルコリンを分解する、コリンエステラーゼという蛋白質の機能を抑えるはたらきをする。
- その結果、アセチルコリンの量が維持でき、認知症治療の低下が防げる。
- アセチルコリンは大脳の奥深いところで生産され、大脳皮質や海馬に送られている。
- 年取ったマウスが噛みにくくなると、物覚えが悪くなるだけでなく、大脳と海馬に送られるアセチルコリンの量が減少する。
- 一般に、アセチルコリンの生産力は、加齢に伴って減少するし、アセチルコリンの数そのものも減少する。
- 実験では、噛みにくくされたマウスは、この両方とも加速していた。
つまり咀嚼障害が起こると、アセチルコリンの加齢変化が促進されるとことが明らかになった。 - 人での研究では、噛むことによって高齢者の前頭前野が活性されるという事実が分かった。
- 高齢期の被験者で行った実験で、大脳の右側の前頭前野が、ガムチューイングによって活性化されるというもの。
- 前頭前野というのはおでこのあたりで、この場所には思考したり計画をたてたり、推論したり注意力や集中力を高めたり、感情を抑えたり、意欲を出したり、情操や創造などにも関係し、最も知的な、論理的な機能を行っているところ。
- 特に右側の前頭前野の活性化は、高齢期に衰える記憶力を増進するために重要だと言われている。
- 一般的に、高齢者は目が見えにくくなり、耳は遠くなる。動きも鈍くなる。若い時と比べて、感覚情報が減少し、大脳皮質の神経活動のレベルが、全体的に低下する。
- しっかり噛むことを習慣づけ、海馬や前頭前野などの神経ネットワークの活動レベルを減衰させないことが、高齢者の認知機能の維持と向上に重要である。
- よく噛んで、脳に活力を与えましょう。
(NHKラジオ深夜便 ないとエッセー 噛めば”命の泉”湧く より)
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